恋というのは全てを変えてしまうのですね。
人間の性質、価値観。―何もかも。
私の前に広がる世界が様々な色に染め上げられて、モノクロだった私の過去を綺麗に彩る。
そうしてくれたのはあなたです。
あなたとエル・ファシルで出会っていなければ。
私は世界の中心で、世界に訴え、世界を愛し、人々を愛し。
そしてあなたを愛することはできなかったのですから―――。



私にとってあなたは「ヒーロー」でした。憧れはしても握手するには遠すぎる存在。遙か雲の上にいるあなたに差し出した一杯のコーヒー。
・・・憶えておいでかしら?
「どうせなら紅茶がよかった」
あなたは自ら私たちの手の届くところまで降りてきてくださいました。至近距離で、次第に高まる胸の鼓動を抑えるのに必死だった私をご存知ではないのでしょうね。

あれから八年もの歳月を経て、私たちは再会を果たしました。
全く変わり映えしないあなたを見て、どこか喜ばしい気持ちになったものです。
私は閣下の副官として少しでもお役に立てるよう、ひたすら職務を全うし、ただそれだけに尽力いたしました。私心など交えずに。
それなのに。
あなたときたら・・・

「その、・・・・・・・要するに・・・結婚して欲しいんだ」

ああ・・・なんて、どうして?
私が“Yes”としか答えないことを、閣下は判ってらっしゃったとでも言うのでしょうか。
しどろもどろなあなたの真っ赤になった耳たぶが未だに忘れられません。


貴方はとても親切で誠実でした。
戦場で怒り、嘆き、悲しみと数多くの苦しみを分かち合いました。
それでも尚私に対しては心優しい伴侶で在ってくださいましたね。
私はそんなあなたに妻らしいことを一つもできませんでした。
料理もお裁縫も満足に出来ない。
「キャリアウーマン」の出来損ないのような自分が腹立たしくて、情けなかった。

ごめんなさいね。あなた―
ブラシで髪を梳いてあげることしかできなかった「奥さん」で。











――謝らないで。それだけでも充分幸せだった。・・・ありがとう。













・・・・・・ねぇあなた。
さっき、あなたの声が聞こえた気がしたわ。
空耳だって言われるかも知れないけれど、確かに仰ったわ。「ありがとう」と。
私の方こそ「ありがとう」なのに。



これからは一人で生きていくことになるけど、いえ、本当は一人ではないのね。
あなたとの思い出と共に生きていきます。あなたの仲間であったみんなも決してあなたを忘れやしないわ。ええ、誰も忘れない。
今頃はお空のどこかで紅茶でも飲んでいらっしゃるのかしら? ―ブランデーたっぷりの紅茶を。
くれぐれもお酒は控えめにね。お空に居る皆さんと仲良くしてね。
私もユリアンに負けてられないわ。頑張ります。どうかご心配なさらないで。


では、いつかお逢いできる日まで。




p.s.I love you...


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