ショコラ・カンタータ

窓の外は紫から濃紺、そして漆黒へとその色彩が移り変っていく。
ジークフリード・キルヒアイスは足下へ視線を転じた。
先ほど熾した暖炉の火はまだ勢いよく燃えている。しばらくは暖が取れるだろう。
爪先から背後にかけて色濃くなった影が長く引き伸ばされていた。
椅子から落ち着かせていた腰を浮かせば、
「待て」
と、向かいの席にいる男が制した。
「まだ消さなくていい」
「しかし夜も更けました。そろそろお休みなられた方がよろしいかと・・・」
「夜が更けたのなら、もはや今更休む必要もなかろう」
「・・・ラインハルト様」
弱ったな。
この、金髪碧眼の青年は夜語りを好んだ。普段が無口に等しい分、ひとたび話し出せば絶えぬ湧水の如く言葉は留まるところを知らない。殊に昔から友人の数が少ない彼が、唯一心を許す相手なら尚のこと。
「キルヒアイス、お前は眠いのか?」
暖炉の火が頭を振った彼の紺碧色をした瞳に灯る。
「眠たくはありませんが・・・・・・あなたのお体に障ります」
「俺は平気だ。―お前は障るとでも?」
「・・・いいえ」
ラインハルトは口調も眼光も鋭く睨み付けた。だが、薄氷のように透き通っている碧い双眸には明るい焔が炯々と輝いて見えた。―全く、この青年は子供の頃から何一つ変わっていないのだ。
彼等が滞在する部屋は黄昏色に染め上げられ、時折木の弾ける音が火花とと共に舞い上がる。
やがてキルヒアイスは立ち上がった。
「コーヒーでもいかがですか?」
「要らん。それより」
「ホットチョコレート。ですね」
と、いたずらっぽく言うと今まで頑なだった顔は綻び、途端に表情は穏やかになって頬には皓々と空に浮かぶ月が恥じらい雲の後ろに隠れてしまいそうな極上の微笑みで「ああ」と応えるのだった。




要はもっと語らいたいだけ。赤金だけど全然ノーマルだしね。
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