父子

「おはよーございます提督。起床時刻ですよ!」
「う〜ん〜・・・・・・あと五分・・・」
「いけません! ほら、起・き・て・く・だ・さ・い!」
毛布を剥ぎ取られる。

―――・・・・・・・・・・。


・・・あれ?



ムクリ。


「今朝は割と素直なんですね。毎日こうだと僕も助かるんですがね」
「ユリアン」
「はい?」








―「しょーしょー! ヤン少将! 朝ですよ起きてください!!」
―「んー・・・もうちょっと・・・」
―「駄目です! いっぱしの軍人がお寝坊だなんてみっともないですよ!?」
―「・・・別にみっともなくてもいいし・・・・・・・ムニャ」
―「だーめーでーすー!!」








「提督?」
ヤンは寝起きで乱れた髪を無造作に撫でつけながら、
「声、変わった?」と、聞いた。
同盟軍の制服を見た養子は振り向き、「いきなりどうしたんです?」と苦笑いを浮かべた。
「以前から徐徐に変わってきてますよ。変声期ですし」
と、答えつつ彼の手は自然と己の喉元を捉える。
「背も伸びたな・・・」
「成長期ですから」
くすぐったそうな笑顔には、相変わらず子供じみた幼い面影が色濃く残っており、ヤンは密かに胸を撫で下ろした。
けれど、少年はゆっくりと、確実にその姿形を変えていることは判っていた。
保護者はまさか彼が自分と同じ服を身に纏うとはよもや想像もしていなかったであろう。
「・・・“提督”や“少将”ではなく、“お父さん”と呼ばせる努力を積むべきだったかな」
「? 何か仰いました?」
「いや」
ユリアンは養父のどこか悲しげな表情の意味を読み取ろうとしたが、判らぬうちに彼が自分と目を合わせてきたため、諦めた。
「・・・・・・・ユリアン」
「はい」
「ここに居るのが辛くなったらいつでも言うんだよ?」
「大丈夫です。僕も子供じゃありません。自分の居場所は自分で決めているつもりです」
少年は元気いっぱいの笑顔を見せつけた。
「―じゃあ、そろそろ着替えて上がってきてください。皆さん、待ちくたびれてるでしょうから」
「ああ」
のろりくらりとパジャマを脱ぎ始めるのを確認したユリアンは「先に行ってますね」と、言って部屋を去った。
白いズボンと薄いシャツ。深緑の上着を羽織って、髪をチェックするために洗面台へ向かう。
鏡の前の寝起きの顔を見て、「最悪だ」と思った。


「―ヤン・ウェンリー。お前は父親失格だな」











まだ早い。
大人になるのはもっと先でもいい。
ずっと、ずっとこれからも、
私のたった一人の息子としてあって欲しい。











ふと見れば、鏡の中の自分は泣いていた。



ヤン提督とユリアン君。「Draems of Brandy」の対みたいな話です。
彼等親子はほんっと微笑ましい・・・。
ヤンお父さんがユリアンが軍に入ることには消極的な発言がチラホラあったんで、こうなりゃ本当はイヤだー!!ってのを全面に出しました。
でもユリアン君はどこまでも付いていって「守って差し上げたい」んですよね。カーワーイーイー(変)
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