elevenses

僕の父は軍人だ。(正確にいえば『養父』なんだけど)
軍人なんていうと、規律に厳しい四角四面な人を思い浮かべがちだが、父に関しては例外中の例外だった。
第一、軍人が嫌いだと公言するくらいだ。相当変わり者だと思う。
自分だって、そうなのに・・・・・・。

 さて、そんな彼の苦手な物は朝。
父は徹底的に朝に弱い。いつまで経ってもベッドから起きてこようとしない。
一回目のアラームが鳴ってどれくらい時間が経っただろう。
とうとう僕は赴いて彼の身体からブランケットを引き剥がす事態になる。―何、こんなの日常茶飯事だから慣れてる。
「てーとくー! 朝ですよぉー!!」
案の定、提督はベッドの上でブランケットに巻かれた状態で夢と現を彷徨っている
あ。ちなみに僕は「父さん」と呼ばない。いつも「提督」だとか「少将」とか階級で呼んでいる。
その方がしっくりくる。「提督」も、「父さん」と呼ばれるのはあまり快くないみたいだし・・・。

―って、そんな事話してる場合ではない。

「あーもうっ。朝じゃなくてお昼になっちゃいますよ!? いい加減に起きてください!!」
休みの日くらい寝かせといて欲しいとか言うけれど、丸一日も寝てたら干物になっちゃうと思うのは僕だけだろうか?
身も心もリフレッシュできたら世話ないですよ? 提督。
対決は僕の勝利に終わった。
のっそりと起きあがった彼の、青味かがった黒髪はボサボサで、その顔はまるで二日酔いが二日経っても抜けないような顔をしている。
ともかく、自宅に居るときの彼ほど軍人とかけ離れた人はいない。
「あ〜・・・ユリアン・・・紅茶を・・・一杯・・・」
声もガラガラ。僕は密かに溜息をついた。
「わかりましたから、顔を洗ってきてください」
「うん・・・」
これじゃまるで立場が逆だ。
僕は世間の母親たちの気持ちというものを何とはなく把握できた。
 そして、ようやく朝食の席に着く。
まず彼は砂糖を入れていない紅茶を飲む。寝起きの時より、若干すっきりとした印象を受ける。
僕はジュースで喉を潤し、お互いトーストに齧り付く。
やがて、提督がぼおっとした調子で声を発する。
「毎日こうだったらいいのにな」
「幸せですか?」
「うん」
僕はトーストを食べ終えると、サラダを取り分けて提督に差し出した。
「明日からまた任務でしょう?」
「・・・任務なんて生優しいもんかね。『戦争』さ」
「・・・・・・気をつけて、行ってきてくださいね」
「・・・・・・・・・紅茶のおかわりを頼めるかい?」
「はい・・・」
今度は砂糖を一杯入れる。
それから提督は何も話さなくなった。
僕もそれに倣って、黙って食事を続ける。



時計はもう十一時を回っていた。



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