誕生

「おめでとう」の言葉が、そっと腕をなぞる。
次第にほどけていく緊張とは裏腹に残酷な事実が躙り寄ってくる。
私は目の前が真っ暗になった。―あの時と同じように。


―こんなはずじゃなかった。


足下を渦巻く罪悪感―まるで底無し沼に落とされて行くみたいに・・・。
子どもを産んだところで、私一人では満足に育てられるわけがない。


・・・・・・何故?
一体どうして、あなたは生まれてきてしまったの!?


疲れと共に呆然と横たわっている私の傍に、生まれたての赤ん坊が迫ってくる。
「はい。抱いてあげなさい」
「・・・・・・」
少し躊躇してからおそるおそる手を伸ばし受け取る。
両腕へ迎え入れた我が子の何と柔らかく温かいことか。
凍り付いていた心臓が溶かされていく気がした。
それでもどう力を加減すれば良いのかわからずまごついている私に、彼女は言う。

「そんなに怖がることないでしょう? あなたはお母さんなんだから・・・」

『お母さん』―・・・・・・・その言葉を口の中で噛み締め、ゆっくりと喉へ通した。
すると、私の中で張りつめていた細い糸が音を立てて断ち切れた。

今にも壊れてしまいそうな小さい生命を抱いたまま、私は何も出来ずにいた。
知らず涙が溢れて、零れて、止まらなくなった。





ふと、濡れた瞳の奥であの男の背中が浮かんで消えた。






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