掌はすでに赤く、紺碧のケープすら紫紺に染め上げられていた。
そして、迅速かつ着実に迫り来る死の旋律はあまりにも優しく甘美な夢の世界に誘うかの如く傷の激痛を忘却せしめた。
―「血塗られた夢に酔っている」―・・・。
なるほど、言い得て妙だ。
命など惜しくはない。くれてやる。
この血は最良の手段だった。
「肌や瞳の色は異なるというのに血の色は万人が同じか・・・・・・」
真っ赤な己の手を眺めながら自嘲と共にある思念が浮かび上がった。
自分を産み落とし、発狂して殺そうとした母。
蔑み虐げ、見捨てた父―。
かつて彼等を「両親」として思ったり考えたりすることを出来うる限り拒んでいたが、たった今、一種の「親への思い」というものを初めて直接投げかけようとしていた。
・・・この血を見せつけてやりたい。
父よ。
母よ。見るが良い。
この色では俺が一体誰の子であるか判るか・・・!?
それでも確かなのは、唯一、
俺が紛れもない人の子であったということだけだ・・・・・・・!!
すでに魂も無くなってしまった二人に捧げたのは恩赦でも愛情でもなかった。
喉元にこみ上げたものを吐き出すことができなかった。
・・・やがて少しずつ傷口から熱い痛みが身体を蝕む。
流した血は無情にも床に広がり続けて、さながら燃えさかる炎の如く彼を包み込んでいった。