角砂糖とクリーム

ぽしゃん!


フォルカー・アクセル・フォン・ビューローとハンス・エドアルド・ベルゲングリューンは互いに「帝国の双璧」と称される二将の補佐を務める部下であり、旧知の仲であった。
彼等の出会いは士官学校時代か、はたまた上官たちのように佐官時代に殴り合いで芽生えた友情だったのか定かではない。

ぽしゃん。

「・・・・・・」
「何だ? ビューロー」
彼の視線に気づいたベルゲングリューンが自分のコーヒーカップから顔を上げた。
「・・・ベルゲングリューン。卿の甘党ぶりには感銘を受けずにおれんよ・・・」
赤毛交じりの茶髪と口髭。その中でエメラルドグリーンの瞳が二つ、爛々と光り輝いている。猛々しい剛毅さとその内面にある実直さがはっきりと目に現れている。
髭を生やすのが好きじゃない上官がいつか彼のことを「熊みたいだ」と表現したが、全く持って同感だった。
そんな男が喫茶店で出されたブレンドコーヒーに角砂糖を二つ落とし、さらにはクリームをこれでもかと大量に注ぎ込む姿に唖然とした。
「卿には参るよ。ほんと・・・」
それじゃコーヒーではなくカフェオレだと突っ込んでやりたくもなった。
しかし、彼は平然として言う。
「俺はコーヒーには必ず砂糖とクリームを入れてでないと気がすまんのだ」
「あぁそう」
「案外イケるぞ。卿もどうだ?」
「いや、結構」
ビューローは甘い物が得意ではない。
―だったらカフェオレかラテを頼めばいいのに。メニューにあるだろう。
ミルク臭い甘ったるい香りにげんなりしている友人に、ベルゲングリューンはこうも言った。
「カフェオレじゃあ駄目なのさ。こうするのが良いんだ」
ビューローが思わず吃驚して目を見張ると、彼は唇の端を僅かに上げて、まるで腕白少年のような無邪気な笑みを浮かべた。


副官コンビ。
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