お手を拝借

「待ってよ!」







いっつもこうなんだから・・・。
フランソワーズは雑踏を掻き分けながら進む。
目標は五メートルほど先にある銀色の頭―。



荷物持ちしてくれるのはありがたいが、こう早足ではついて行けない。迷子になる危険性がついてくるのである。
「こらぁー! 止まりなさいよバカーっ!」
精一杯声を張り上げてやると、彼はぴたり立ち止まり少女を待った。
ようやく追いついて一息つくと、
「バカとは何だ。バカとは」
表情こそそんなに変わり映えしないものの、その声音は憮然としていた。
「だって・・・あなたが歩くの速いのよ! 迷子にする気?」
「んなワケねーだろ」
冗談はよせと言わんばかりの彼。フランソワーズは口を尖らせた。
「失礼ね! もう少しであなたの頭見失うところだったんだから。ゆっくり歩いてよ」
「そりゃ無理ってモンだ」
彼女の要求に応じる気はまるっきりないらしい。そこで、グッドアイデアを閃いた。

ムギュ。

「何?」
「こうしとけば迷子になる心配ないでしょ?」
ハインリヒはしばらくポカンとしていた。彼のコートの裾を彼女の白い手がしっかり掴んで離さない。
「さ、行きましょ!」
「わかったからあんまり引っ張るな!」
人知れず溜息が零れる。



 繁華街は休日ともなれば平日の倍以上の人でにぎわっていた。
細い歩道も人で溢れ、ブティックのショーウインドウもうかうか眺めていられない。
子連れの親はしっかり幼子の手を握って歩いている。
 フランソワーズの背丈は彼の一回りも二回りも低い。往来する人々に揉まれながらコートの裾だけは強く握っていた。
「んっ・・・ととっ・・・」
何度か転びそうになる。買い物袋がガサガサ騒いだ。
 すると彼の手が伸びてきて、裾から払いのけた。
「あっ!・・・」小さい悲鳴が上がる。
白く細い手は空を切った。かと思うと黒の手袋をはめた大きなそれが受け止めた。
―え・・・・・・・。
信号が赤に換り、二人は歩を止める。
「あの・・・」
「この方が確実だろ」
「そりゃそうだけど・・・」
「嫌か?」
「とんでもない!!」
思わず大声を出してしまった。周りが一斉に二人を見る。
「馬鹿」
「ごめん・・・」
青になり、横断歩道を歩きながらふと仰いだ。
木枯らしが吹き、彼の顔はよく見えなかった。
無意識にこんな言葉を発した。

「あなたの手、温かいわ」

返事はすぐには来なかった。
渡り終えた頃に、こう返ってきた。

「・・・今日だけ特別だからな」

それを聞いたフランソワーズは肩を揺すって笑った。
「なっ、何で笑うんだ!」
「べっつにぃ〜さして理由はありませんわよ?」

「・・・・・・・手ェ繋ごうなんて考えるんじゃなかった・・・」
「今なんかおっしゃいました?」
「別に! さ、とっとと帰るぞ!」

冷たい風が妙に気持ちよかった。


43で仲良く。可愛げのあるフランが好きです。
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